岩手県・釜石市。沿岸のこの町に、熱烈リピーターが続々誕生しているという商品があるとの噂を聞きました。 その商品を作っているのは「金弁(かなべん)商店」。海のすぐそばに工場を構え、釜石港で揚げられた新鮮な海の幸を丁寧に加工しています。 「金弁商店」のイチオシがイカの丸干し。この丸干しに使われるのは釜石産の「ムギイカ」です。「ムギイカ」という名前、耳慣れない方も多いかと思います。 「ムギイカ」…実はスルメイカのことです。 「なーんだ、スルメイカなら知ってるよ!よくあるイカだよね。」と思ったら大間違いです! 「ムギイカ」は、スルメイカの中でも6月〜7月の限られた期間に獲れる若いイカのことです。成長したスルメイカよりも甘味が強く、柔らかく、また若い故に体が小さいことが特徴です。 そのムギイカを丸ごと乾燥させたのが、「金弁商店」の「いかの丸干し」です。限られた季節に収穫されたムギイカを冷凍保存しておき、毎日製造する分だけ丁寧に解凍して加工します。手で1杯1杯並べ、足まで綺麗に伸ばし、機械で丸2日乾燥させます。外す時も丁寧に手作業ではがすから、足までピンと伸びた綺麗な干しイカになります。 イカを乾燥させた食べ物と言えは「スルメ」ですが、「スルメ」とは内臓を取り除いて干した物とのこと・・・内臓が入ったままのこれは「スルメ」とは違うのか?とりあえず、食べてみましょう。
「金弁商店」のいかの丸干し…まず驚くのはそのやわらかさです。「スルメ」から連想される干したイカ特有のカチカチの硬さはなく、生のまま頭から食べて噛みきれる程、ソフトな仕上がりです。 そして香り。袋を開けるとイカの濃密な香りが広がります。スルメでここまで香りがでるものなのでしょうか?これだけで、従来のスルメと一線を画していることが伺えます。 ひと口食べると…「わっ!味が濃い!!」その身は小さいながら主張がすごく、噛む程に身からうまみが沁み出し、イカの存在感が口の中に溢れます。加工段階で独自の塩分配合の塩水に漬けてあるので、独特の塩気があり何も付けなくても・・・というより、何も付けない方が美味しく食べられます。その位、主役級の存在感があります。
身を食べすすめるとワタに。身とは全然違う、刺激的な味。ワタと言って思い出される苦みはさほど感じず、豊かな磯の香りを伴った深いコク。喉を通る時には生命力が凝縮されたような、奥行きのある旨味を感じます。 ワタがこんなにも美味しく、食べやすいなんて!もっとその奥深い魅力を知りたい… その欲求に食べ進める手が止まりません。
身が小さいからこそ、頭からワタ・下足へと食感・味の違いを堪能しながら食べられます。 まず導入はやわらかくクセのない頭。次は海の神秘が詰まったワタ。そして、コリコリの食感がヤミツキになる下足。その魅力に取りつかれたようにまた2杯目へ手が伸びる・・・。 香りと言い、味と言い、これだけ自己を主張する食材はそうそうないのではないか・・・。そう思えるほど、稀有な魅力を感じる逸品です。
生も良いですが、やはりイカは炙って頂きたい。魚焼きグリルやオーブントースターで火を通すと、すぐに香ばしい香りが漂い、あっという間にカリッと焼きあがります。 焼いた身は表面がサクサク。でも、中は程よくやわらかく。火を通すと更にイカの身は風味と塩味が濃くなります。 アツアツのワタはトロリとその奥深い風味が増し、白いご飯と一緒に食べると最高です!丸干しイカはそのまま食べる以外にも、食材のひとつとして、和食・イタリアン・中華…と様々なジャンルの料理に使えます。とにかく個性が強いので、ほんの1杯混ぜるだけでその料理にシーフードの風味と奥深いコクを加えてくれます。大根とイカの丸干しを一緒に煮た、ご飯に合う和風の料理です。イカの旨味が大根に沁みて、いくらでも食べたくなる一品です。トマトベースのパスタに丸干しイカを1杯加えました。ソースの風味が一層深くなり、パスタに一段旨味が加わりました。焼きそばに程よく丸干しイカの塩味が加えられます。シーフード焼きそばならではのさっぱり感も魅力です。お米2合に切った丸干しイカを1杯分入れて炊き込みました。イカの身の香ばしとワタのコクが効いて、次々食べたくなる美味しさです。
金弁商店は釜石港の目の前に位置しています。会社としては昭和40年設立、創業は100年前にも遡り、この場所でずっと釜石の海と付き合ってきました。 2013年3月11日。朝6時から仕事が始まる工場では、14時には従業員は帰宅。家族で作業をして、そろそろ上がろうかと話していた時・・・。あの地震が起こりました。 「工場の前に3階建ての建物があって、そこまで水が来ました。」と金弁商店の新沼さんは振り返ります。 避難したため人の被害はなかったものの、工場は骨組みを残すのみに。再開には1年3ヶ月を要しました。 丸干しイカは、10年以上作り続けた看板商品。熱烈なリピーターも多く、再開を喜んだのは従業員だけではありませんでした。 釜石港に揚がる新鮮な海の幸とこれからも・・・100年以上繋いできた金弁商店の思いはこれからも変わりません。