七ツ森工房、佐々木健太郎さんの南部鉄器は個性的だ。 縦に長い鉄瓶。持ち手は上側に付いていて、独特のカーブを描いている。 しかし、その形には意味がある。
持ち手が上に付いているのは、片手で持った時に重さが軽減されるため。 使う人の立場に立って作られたデザインが、結果、個性的で美しい形の南部鉄器となったのだ。
佐々木さんが鋳物の世界に入ったのは、16歳の時。 仕事をしていく中で創作への意欲が高まり、南部鉄器の職人となったのは、10年後の26歳。 灰皿から作り始めて、鉄瓶を1個完成できるようになるまではそこからさらに10年経った、36歳の時だった。 その後、技に磨きをかけ、伝統工芸新作展で奨励賞を受賞するまでに。 そして、現在60歳を越える佐々木さん。 南部鉄器にかけるその長年の情熱は、如実に作品に表れている。
「真っすぐな線は貧弱に見えるから使わない」というこだわりから、 取っ手は手で曲げることもあるという。 佐々木さんの思いがこもった鉄器には、機械的ではない親しみやすい温もりがある。
佐々木さんの南部鉄器は量産品ではない。 デザインからかまどまで、一つひとつの作品にじっくりと向き合って製作する。
湯釜に至っては同じデザインのものは2度と作らないようにしているほど。 それは、「買った人にオリジナルを使ってほしい」という思いから。
よく見ると、同じデザインの鉄器でも一つひとつ微妙に表情が異なっているのが分かる。 手に入れたお客さんが「自分だけの鉄器」と喜ぶのもうなずける。
南部鉄器は商品を購入した後も、時間をかけて育てるもの。
佐々木さん自身も、自作の南部鉄瓶を愛用していた。 いい色に育っているその鉄瓶を指し、 「これでお湯を沸かすと、うんまいよ」 とにっこり笑う。
「うんまいお湯」を作ってくれる生活の相棒。 佐々木さんの笑顔を見ていると、「自分だけの鉄器」が欲しくなる。
デザインから焼きに入るまで、全て佐々木さんが手がけるので、量産されていない貴重な作品。 個性的な「自分だけの逸品」を手に入れることができる。
工房の名前にある「七ツ森」とは、岩手県雫石町にある「七つ森」という地名のこと。 その名の通り、七つの森が連なっていて、宮沢賢治はこの場所がお気に入りだったらしく、作品にもしばしば登場している。 その地に工房を構える佐々木さんは宮沢賢治を模ったブックエンドなども作製している。